2018.04.26

【企業の人事に聞く】大和ハウス工業株式会社

大和ハウス工業株式会社
人事部 海外人事室 室長 千原誠様

今回のインタビュアー
慶應義塾大学 三宅秀昌さん/東京理科大学 野崎俊さん
(トビタテ!留学JAPAN 日本代表プログラム)

【企業の人事に聞く】大和ハウス工業株式会社

当社のグローバル戦略の根幹にあるのは、「日本品質を海外に輸出する」という発想

「トビタテ!留学JAPAN」への御支援ありがとうございます。戸建住宅や分譲マンション、商業施設や物流施設、さらには旅行の斡旋や次世代エネルギーまで、国内外を問わず幅広い事業展開を進めていらっしゃる御社ですが、まずは御社のグローバル戦略について教えてください。

千原:当社のグローバル戦略の根幹にあるのは、「日本品質を海外に輸出する」という発想です。それは、建築のあり方が日本国内と海外ではまったく異なるという事情が関係しています。
建築というのは商品をそのまま海外に持って行けばよいというものではありません。どうしても現場での作業が必要になるため、現地の職人や技術者の方の人財育成が欠かせないのです。文化や慣習が異なりますから、そのハードルを越えてメイド・イン・ジャパンの素晴らしさを提供するためには、マネジメントのやり方も日本とは異なってきますし、現地の人たちが何を求めているのかという現地への理解も必要となります。
実際の事例としては、中国、アメリカ、オーストラリアに加え、ベトナム、インドネシアといった東南アジアの新興国市場でも事業を展開しています。
中でも最も力を入れているのは、中国です。大連、蘇州、無錫、常州などで大型の分譲マンションの開発・販売を行っており、多くの技術者を派遣しています。その次がベトナムで、ホーチミンの工業団地の建設などを行っています。アメリカやオーストラリアでも、賃貸マンション事業を展開しています。

(写真左から、千原様/三宅さん・野崎さん)

御社では「グローバル人材」についてどのようにお考えでしょうか?

千原:まず当社では従業員を会社の財産、つまり「人財」と捉えています。グローバル人財と言うことでは語学力よりもむしろ建築現場の中で、現地の人の輪に飛び込める人財が求められます。つまりは現場のマネジメントができる人財となり、必然的に日本の現場を一通り動かした経験や一定の実績のある人財を海外に送り込むというやり方を取っています。

三宅:確かに建築という分野ですと、現場の職人の方々とのやり取りが多くなりますよね。そういう現場では、その国の言葉を話せるだけでは、なかなか信頼関係も築きにくいのかなと想像しているのですがいかがでしょうか?

千原:おっしゃる通りです。正面から人にちゃんとぶつかっていけるかどうかという意味では、その人自身の気持ちや姿勢が重要ですね。そしてそういう人は、仮に語学力に課題を抱えていたとしても、現地に行ったらその国の言葉を死ぬ気で勉強します。それは自分が現地の人たちと本気でコミュニケーションを取りたいと思うからです。そうしているうちに、結果として言葉も話せるようになります。たとえ自分でそこまで話せるレベルまで行かなくても、通訳が話しているのを聞いて、「これでは自分の言いたいことは伝わらないな」と感じ取り、「そんな言い方ではなく、こう言って欲しい」と通訳に言えるくらいになる。そこまでいくと、現地の人たちからも信用されるようになります。

「メイド・イン・ジャパン」の強みがもっと評価される時代は来る

野崎:私は建築を専攻しているので、デザインという観点からもうかがいたいと思います。工業製品と言っても日本で売れるものと、アジアで売れるものにはかなり違いがあると思うのですが、表面的なデザインという意味だけでなく、その背景にある文化や習慣の違いも踏まえて何か気をつけている点はありますでしょうか。

千原:各国や地域でどういうものが好まれるかという点では、やはり明確な差がありますね。中国を例にとるとやはり派手なものが好まれます。当社は「日本品質を海外に輸出する」という考えが根底にありますので、日本ならではの要素をどこかに取り入れたいとは考えています。
また、アメリカで現地のお客様が日系企業に依頼される場合には、何らかの日本的なものを入れてほしいと求められることは多いようです。和室だったり、竹を用いたデザインだったり、といった日本らしいイメージが好まれます。

三宅:私は香港に留学しているのですが、留学前は日本の未来について悲観的に考えていました。それが実際に香港に留学すると、日本に対して好印象を持っている人が多くて驚きました。現地の工場に行った時にそこで働く方々ともお話したのですが、私が思っていた以上に日本は世界に受け入れられているのだなと肌で感じました。日本品質や日本ブランドということで言えば、御社は今後さらに海外展開を進めるとのことですが、やはり日本品質にはそれだけの需要があるということなのでしょうか?

千原:日本品質は間違いなく受け入れられていくと考えています。例えば海外の建築現場では、職人の方に何度言っても寸法が合わないということが起こります。デザインは美しいのですが、構造計算をちゃんと行っていても、その通りにできているのかは不安なケースもあります。
しかし安全、安心という価値は普遍的に受け入れられるものであり、見えないところまできちんと作っているという点が日本品質の良さであり強さです。建築で言えば耐震性能や設計監理の確かさといった、日本がこれまで蓄積してきた「メイド・イン・ジャパン」の強みがもっと評価される時代は来ると思いますね。当社はロボット事業などの新規事業にも力を入れており、今後はこうした日本品質を複合した価値を提供したいと考えています。

そんな時代を迎えようとする現在において、在学中に留学する意義や留学経験者が社会に出ていく上で期待することなどはありますか?

千原:文化の違いという高いハードルを乗り越えてぶつかっていけることが重要だと申し上げましたが、これは実際に経験しなければ身に着かないものです。その機会を学生時代に得ることは貴重なことだと思います。また、早くから海外に出ることで、日本の良さをより早くから理解することも重要だと考えます。
そういった意味で「トビタテ!留学JAPAN日本代表プログラム」は、非常に素晴らしいと思っています。というのも自ら企画した留学計画書の提出、面接、プレゼンといった選考の過程で手間ひまをかけて自分自身について考えなければならないからです。その中で目的が先鋭化し明確になり、自分のビジョン形成につながる。すると、もっと人間的に成長するために、今何をやるべきかが見えてくるのだと思います。このように、自分自身のキャリアと結びつけて留学について考えられる仕組みができていることが、非常に素晴らしいと考えています。さらに事前研修では日本の良さ、日本と海外の違いも学ぶ機会がありますね。自分のアイデンティティーだけでなく、日本人としてのアイデンティティーを考えることも大事なことだと思います。

最後に学生に向けてメッセージをお願いします。

千原:ひとつは「夢を持ってほしい」ということです。自分がこうなりたいと思うイメージを持って、そこから逃げることなく、着実に進んでほしいですね。楽な道を選ばず、夢の実現に向かってしっかり進んでいってほしいと思います。
ふたつ目は「やればできる」と信じるということ。留学する、社会人になるという大きな変化に直面すると、こんなはずじゃなかったという状況にぶつかることも多くなります。人間はそんなに強くないので、場合によっては進む道を変更することも必要です。ですが、やりたいことのゴールや根本的な思いがある夢の部分、つまりビジョンは変えずに進んでいってもらいたいと思います。「自分はやればできる」と信じてほしいです。
この二つがあれば、どんな環境でも生きていけると思います。留学するにせよ何にせよ、今後生きていくうえで大事な要素だと考えています。
そして、最後に忘れてほしくないのは「周りの人への感謝の気持ち」です。感謝を表せるということは、周囲の人に目を配っているということです。学生の皆さんにこれから社会のリーダーとしての活躍が期待されていますが、リーダーという存在はチームの1人1人の違いを把握し尊重し、それぞれの良さや力を引き出せる能力のある人のことです。そういう人になるためには、周りの人への感謝の念を持ち、彼ら、彼女らのおかげで今があるんだという思いを持たないといけないと考えています。

インタビュアー紹介(トビタテ!日本代表生)

氏名:三宅秀昌
大学・学部:慶應義塾大学 経済学部 3年
渡航先:中国 香港
留学先:The University of Hong Kong
留学期間:2014年9月~2015年8月
留学先で学んでいるテーマ:アジアにおける国際ビジネスの展開と戦略について
取材後記:日本品質を輸出する大和ハウス工業では、「現地に飛び込んでいける人財」であることが求められているそうです。この上で重要になってくるのが、千原さんがおっしゃった「夢を持つこと」なのではないかと思います。何かにくじけそうになった時、自分を一番支えてくれているのは、自分の「思い」であり「夢」でした。この「夢」を、自分はいつまでも大切にしたいです。

氏名:野崎俊
大学・学部:東京理科大学 理工学研究科 建築学専攻 修士2年
渡航先:ベルギー ゲント、イギリス ロンドン
留学先:NU architectuuratelier/Haworth Tompkins
留学期間:2014年10月〜2015年3月
留学先で学んだテーマ:家具と建築・歴史と建築
取材後記:千原さんの「トビタテ!留学JAPAN日本代表プログラムの仕組みが素晴らしい」という一言が印象に残りました。現代社会は、価値観が多様化していて、私たちは個々人が評価軸をはっきりと持ち、「新しい価値を生み出すこと」が求められていると感じました。私自身、留学で初めて世界の広さを知りました。日本でマイナーでも、世界中に影響を与えられる強い個性が必要だと改めて思いました。