2018.04.26

【企業の人事に聞く】三菱商事株式会社

三菱商事株式会社
人事部採用チームリーダー 日下部義志様

【企業の人事に聞く】三菱商事株式会社

相手を考え、自分を出す“外”から見て日本を発信できるチカラを

「トビタテ!留学JAPAN日本代表プログラム」への御支援ありがとうございます。今回は、グローバル企業である御社が求める人材と“留学”の関係についてお伺いできたらと思います。まず、“グローバル”という観点からこれからの若者が直面する課題にはどのようなものがありますか?

日下部:私自身はベビーブームで同世代が200万人以上います。しかし今の大学生の若い世代の方は、120万人いるかいないかという水準です。一方で、昔からそうですが中国やインドといった国には若い世代が日本の何倍もいます。
我々を取り巻く環境はインターネットの普及に伴いこの20年で大きく変わりました。情報の格差がどんどん無くなり、経済水準、教育水準も新興国は先進国に追いついてきていると言えます。かつてはそれらの格差があったために、‘少ない人数’でも新興国に負けずにやってこられましたが、今の若い世代は、そうした優位性も無くなってきた上にかつての6割程度の人数で「対抗」しないといけない。つまり、いろんな意味で従来のやり方では、日本という国は国際社会でどんどん遅れをとることになりかねないのではないか、そんな危機感を感じます。
少子化で労働人口が減り、外国人労働者の受入れが進むといずれ、国内にいたとしても、海外の人と接する機会はもっと増えていくでしょう。また一方で内需だけではなくますます外需に依存することにもなるでしょう。「だから留学する必要があるんだ!」と安易に申し上げるつもりもありませんが、多かれ少なかれ海外異文化への備えをしておいた方がよいと考えられます。今後日本人として負けないようにやっていこうと思うなら、海外の人々とうまく付き合えるようにしておくことが重要だと思います。

では、御社では“グローバル人材”についてどのようにお考えでしょうか?

日下部:グローバル人材である以前に、社会人として、「ヒトに興味を持つ」「自分の考えを言う」ということが大事だと考えます。自分ひとりで出来ることには限界がありますし、何を成し遂げるにしても多くの人の力を借りながら、また協力しながらやっていかなくてはなりません。この人とはどう接したらうまく仕事が出来そうか、チームとして良い仕事が出来そうか、こういった観点が必要になります。日本人同士では、あうんの呼吸で分かることもあるでしょうが、海外の方とはなかなかそういうわけにはいかないでしょう。弊社では世界各国との取引だけでなく、事業投資という形で海外の異なる企業の方々と共同で同じ目標をもって事業を行うケースがどんどん増えております。育った環境や立場が異なる海外の人々と一緒に仕事をしていくには、相手のことをより理解しようとすることと同時に、自分のこともしっかりと分かってもらうことが必要です。自分もチームの一員として相手に正しく理解してもらう、そのためには自分の考えを伝える、ということが大事です。これら2つの要素が「コミュニケーション能力」だと思います。「コミュニケーション能力」というと平板な印象を受けてしまいますが、会話を弾ませるということではなく、周りの人に理解を示し、自分のことを過不足無く分かってもらうという要素が大事ではないでしょうか。そういった意味では、グローバル人材には、このような「コミュニケーション能力」が必要だと思います。

そういった点は、留学したほうが身に付きやすいのでしょうか?

日下部:特に「自分の考えを言う」という点については、国内にいるだけよりも意識できるのではないかと思います。日本では若い人においても「空気を読む」というのを意識して、ある意味で自分を抑える人が多いように思いますが、留学をしたら「自分を出すんだ!」と力まなくても、そうせざるを得ない環境になると思います。海外にいると、様々なトラブルにも合うかもしれませんが、そのような状況でこそ、成長できるのではないでしょうか。

留学生の印象はいかがですか?

日下部:やはり留学されている学生さんは、生き生きしている印象があります。自分で何かを決めたということに対しての「覚悟」があるからだと思います。そこは、私自身、「親」目線で見ても、いいなと思うところですね。「企業」目線で見ても、若い時に自分で決めたということは、尊重して捉えられる点だと思います。
海外に出ることで日本の足りない点を感じる場合もあるようですが、一方で、海外の人々の中で日本製の車や電化製品が重宝されている現状を見て誇らしく感じることも多いようです。また、帰国して日本の良さを感じる場合も多いようで、決まった時間に電車が正確に来たり、温かいシャワーがいつも出るといった日常の中にありがたみなどを感じたりもするようです。そんな中で、この日本の良さをもっと世界に伝えられないかとか、更には、世界において日本人としてこれかどうすべきかまで考える人もおり、とても逞しく感じます。
社会に対して“志”を持ち、世界において日本がどう貢献するか、自分がどう貢献するかということを考えて、そして行動にうつすことも、グローバル人材として重要な要素だと思います。

異文化コミュニケーション力は大前提 実地を通じて鍛える熟成型の教育スタイル

御社は色々グローバル制度が充実しているかと思うのですが、具体的にどういった要素を取り入れながら人材育成しようとしていらっしゃるのでしょうか?

日下部:若手社員向けの研修として、「グローバル研修生制度」があります。この研修制度の中には3つのタイプがあります。「ビジネススクール研修生」、語学習得を目的とした「地域研修生」がありますが、最も多いのが「トレイニー」という制度です。入社8年目までの若い時に、半年から1年の間、海外のなるべくハードシップの高い国に派遣するというものです。未知の世界で揉まれたり、異文化に触れたり、また異質な人とコミュニケーションして幅を広げることを目的としています。派遣先の国の駐在事務所や事業投資先で業務をしてもらうのですが、必ずしも英語が通じる国ではないので、業務と並行して語学も学ぶこととなります。
タフな環境で逞しくなって帰ってくるというのももちろんですが、世界から見た日本、あるいは世界から見た三菱商事を若いうちに体感することで、帰国後の業務にも活きるようです。

日下部:ただ、入社8年目で一人前になれるかというと、必ずしもそうではないと思います。
商社の人材育成は「熟成型」ではないかと思っています。
商社のビジネスは、同じ商材において原料から消費者まで、つまり川上から川下まで関わることが多いです。もちろんポートフォリオの観点からメリハリはありますが、川上から川下までそれぞれの過程において、日々のトレーディングや、あるいは事業投資を通じて、その商材や業界についての経験が社員に蓄積されていることが商社の強みです。社員は、ひとつの商材について、川上から川下まで、色々なポジション、立場、国で経験し、その過程で成長していくのです。例えば、最初国内で上流、次に海外に出て中流を担当、下流では子会社に出向してマネージメントに携わる、というような形です。そのような経験を通じて、「全体を見渡す」だけでなく、「全体を理解する」ことが出来るようになり、世の中から必要とされるビジネスマンに成長していく。そういう意味では、単にスキルを短い期間で身につけるのではなく、リアルな経験を通じてじっくりと足腰を鍛えていくという育成スタイルだと思います。

最後に学生にメッセージをお願いします。

日下部:繰り返しになりますが、これからの若い人はある意味でとても大変だと思います。「個」も大事ですが、それぞれが「個」も磨きながら「仲間」とも一緒になってこれからの日本を盛り上げていって欲しいと思います。大いに期待しております!