2018.04.26

【企業の人事に聞く】豊田通商株式会社

豊田通商株式会社
コーポレート本部 人事部 グローバル人事企画室 課長職 横山曜様

今回のインタビュアー
大阪大学 松下祥子さん/名古屋大学大学院 新藤さえさん
(トビタテ!留学JAPAN 日本代表プログラム)

【企業の人事に聞く】豊田通商株式会社

アフリカでのビジネス展開に注力

御社の事業についてお聞かせください。

横山:豊田通商はトヨタグループの総合商社として、トヨタグループの海外展開と共に発展を遂げてきました。現在は、元々強みを持っていたモビリティ分野(自動車関連事業)以外にも、主に食料や生活産業に関わるライフ&コミュニティ分野、資源や環境に関わるリソース&エンバイロメントといった様々な分野で事業を展開しています。それと共に会社の規模、特に海外での事業ネットワークが拡大。海外における拠点数も90か国150以上を数え、日本と海外における収益比率は35:65となり、ビジネスの主戦場は海外へと移ってきました。事業展開の重点地域としては、これまでの北米、欧州、アジアから、日本と地理的にも離れ、日本の文化や商品のプレゼンスも高くないアフリカや中南米へと舵を切っています。
その中で当社の大きな一歩として、2012年にフランス最大の商社CFAO(セーファーオー)を買収しました。CFAOはアフリカに事業基盤を持ち、主にアフリカ北部および西部で自動車関連ビジネス、医薬品や消費財を取り扱っています。この買収を機に、豊田通商はアフリカでのビジネス展開に注力していくことを大きく打ち出しました。2017年4月からは「アフリカ本部」というアフリカ専門で事業運営を行う部門を立ち上げました。
これから当社の行う事業は、従来までの日本で作った商品やビジネスモデルを海外に横展開する形から、各国の多様なニーズを理解し、現地の人たちと共に商品やビジネスモデルを作る形へ変化していくことが重要です。特にこれから当社が注力するアフリカは、従来のやり方が通用しづらい地域ですので、CFAOなどのパートナーと共に事業を展開していくことになると思います。

国籍・人種・年齢・性別の違いや多様な価値観を尊重し、グローバルに新たな価値を生み出すことのできる人材

御社ではグローバル人材をどう定義していますか。

横山:当社の現在の海外駐在員数はおよそ700人、当社単体の社員数は約3500人ですので、社員の5人に1人は海外駐在をしている計算です。2014年には真のグローバル企業を目指し、「Diversity & Inclusion」の推進を宣言しました。これは、「国籍・人種・年齢・性別などの属性や、性格や価値観といったその他の要素の異なる人材が存在する状態であるDiversity (多様性)」と「違いに関わらず、全員が組織に平等に参加し、その能力を最大限に発揮できるようにする Inclusion(受容)」の両方を推進していくものです。従い、私自身はグローバル人材を「国籍・人種・年齢・性別の違いや多様な価値観を尊重し、グローバルに新たな価値を生み出すことのできる人材」と捉えています。そのような人材を育成するため、1つにリベラルアーツ(教養)を身につけることが必要だと、当社は考えています。理由は大きく2つあります。1つ目はグローバルな事業経営を行う上での判断軸を磨くことができる。2つ目は人間性や品格を高められるということです。例えば、過去の大きな歴史の流れや、地理、宗教、哲学を学ぶことで、今ある世界はどのように成立し、今後どうなるかという長期的かつ俯瞰的な視点を持って経営判断を行えます。世界の文化や芸術を理解することも、海外のパートナーから尊敬され、強固な信頼関係を築く上で不可欠です。当社では、新入社員から部長クラスまでの各階層別研修にリベラルアーツを取り入れており、さらに選抜者に対し、そういった研修を海外の優秀者と一緒に受ける機会も設けています。

新藤:私もイギリスに留学していた際、ホストファミリーと共に毎週日曜日に教会へ行っていましたが、日本の無宗教の概念を説明することにすごく苦労をしました。お互いそれぞれが当たり前に持っている価値観を他人に言葉で説明することの難しさを感じました。

横山さん個人はこれまで海外でどのようなご経験をされてきたのでしょうか。

横山:私は日本の大学を卒業した後、1年間オーストラリアに留学しました。帰国後は日系の電子部品メーカーに就職し、その後、豊田通商に転職しました。キャリアを通して人事畑を歩み、当社では2010年~2013年までシンガポールにある豊田通商アジアパシフィックという、南はオーストラリアから西はインドにまで渡る豪州・アジアの地域統括会社に3年半ほど駐在をしていました。ここでは地域統括拠点としての全体の制度づくりと、域内各国の個別人事サポートが大きなミッションでした。人事というのは、その国の労働法や文化・慣習に沿った形で行わなくてはならないので、月に2回くらいはシンガポールから他国へ飛んで、その国で働いている社員の現場を見るように心がけました。
松下:カナダに留学中、カナダ人の中で、日本人どころか外国人が私一人でインターンをしており、英語でのコミュニケーションにも限界を感じて、自信を無くしかけていた時「祥子は細かいところに良く気付いてくれて助かる」と言われ、すごく自信を取り戻すことも経験しました。横山さんも何か壁にぶつかってそれを乗り越えた経験はあったのでしょうか。

良い職場にするために現場が必要なものをひたすら与え続ける

横山:もちろん駐在中は様々な壁にぶつかりました。地域統括拠点の性質上、現地の慣習や状況如何に関わらず、各国に同じ内容・レベルのお願いをしなければいけない事項も出てきますが、各国の目の前の困り事ではないため、協力を得ることはいつも困難でした。日本人駐在員である私が他国拠点に行くと、本社がまた何かを押し付けに来た、と現地スタッフに思われてしまうのです。その時に大事なことはGive & Takeではなく、Give & Giveで物事を考えることです。相手のために何かをやって、相手からの見返りを期待せず、良い職場にするために現場が必要なものをひたすら与え続けることです。そのような姿勢で各国の困り事を解決していくことで、相手が自分を信頼し始め、地域統括拠点としての仕事にも積極的に協力してくれるようになり、自分も相手も共にレベルアップしていくことができました。また、海外で働いている中では、自分の言っていることが相手に伝わらない場面も、相手の言っていることが自分で腹落ちしない場面も数多く経験します。そういった時に相手のせいにしても仕事は進みません。常に自責で考え、次はどう伝えたらいいのか、どう相手が伝えやすい関係・環境を作り出すのか考えることも重要です。

最後に学生にメッセージをお願いします。

横山:これまで様々な国に足を踏み入れて感じたことは、相手にかける配慮は日本人の絶対的な強みだということです。一方で、日本人の弱みは発信力だと思います。強みの裏返しの部分でもありますが、配慮しすぎるがために遠慮が出てしまうのだと思います。欧米では自分がいかに発信して価値を出すか、ということに対し、アジアでは先生や師から教わって自身の価値を高めるという教育思想の違いもあると思います。受けてきた教育の違いを自覚しながらも、然るべき時に価値を発信できるのが、グローバルな世界で日本人に求められるものだと思います。
今後、日本の市場は縮小していくので、日本人が世界に出ていく必要性は更に高まります。学生のうちに海外経験を積み、語学や海外の文化を学ぶのはもちろんのこと、その中で自分の強みや魅力を見つけ出し、それを発信することで、世界でリスペクトされるような人材になっていって欲しいです。

(写真左から、松下さん/新藤さん/横山様)