留学大図鑑 留学大図鑑

TG

出身・在学高校:
岡山県立新見高等学校
出身・在学校:
埼玉大学大学院
出身・在学学部学科:
理工学研究科化学系専攻基礎化学コース
在籍企業・組織:


最終更新日:2018年03月07日 初回執筆日:2018年03月07日

臓器を創って測る

留学テーマ・分野:
大学院生:交換・研究留学(日本の大学院に在籍しながら現地大学院内で学ぶ留学)
留学先(所属・専攻 / 国 / 都市):
  • Cincinnati Children's Hospital Medical Center
  • アメリカ合衆国
  • シンシナティ
留学期間:
6か月
総費用:
850,000円 ・ 奨学金あり
  • トビタテ!留学JAPAN「日本代表/新・日本代表プログラム」 1,000,000円

語学力:

言語 留学前 留学後
英語 授業や会議の内容が理解でき、必要な発言ができるレベル<TOEFL iBT 72点> 授業や会議の内容が理解でき、必要な発言ができるレベル

留学内容

本留学の目標は、ヒトの肝臓を生体外で創り出し肝疾患のモデルを確立することです。私は化学を専攻する学生でしたが、細胞と分子が織りなす複雑で規律的な生命の発生現象に興味を持ち、再生医学を学ぶ決意をしました。肝臓は人体の化学工場ともいわれており、様々な分子の合成や分解・貯蔵を担っています。したがって、分子が持つ性質や相互作用の解明を対象とする化学との相性が非常に良い臓器です。留学中は、ヒトのiPS細胞から小さな肝臓様の組織を創り出し、この組織を脂肪酸分子と共に培養して脂肪肝の生体外モデルを構築しました。「組織を構成する細胞」と「脂肪酸分子」との相互作用を深く観察することで、どの様に脂肪が肝臓に蓄積していくのかなど、興味深い結果を得ることができました。現在、先進国の成人人口の30%が脂肪肝の疑いがあるという報告があり、その治療薬の開発が世界中で行われています。今回の留学で構築した脂肪肝モデルは、今後スクリーニングへの応用などが期待され、創薬分野に大きなインパクトを与えることができると考えています。

留学の動機

細胞と分子の相互作用は生命機能を発現・維持するために最も重要なプロセスの一つで、この細胞-分子間の相互作用バランスが崩壊したとき疾患へとつながります。この様な複雑かつ規律的な生命現象の謎を、化学を用いて解明するために、私は生命科学の世界最先端を行く研究所の一つであるCincinnati Children’s Hospital Medical Center (CCHMC)への留学を決意しました。

成果

肝臓の一部機能を有した生体外組織を用いることによって、脂肪肝疾患のモデルを構築することに成功しました。現在、留学で得られた成果を論文雑誌に投稿中です。また、国内学会で同成果を発表したところ、発表賞を2件受賞することができました。

ついた力

限界を知る力

本留学によって、今の再生医学分野では何が達成されていて何ができていないのか、という境界を知る力が身に付いたと思います。そして、異分野研究で留学したからこそ、自身のバックグラウンドである化学を応用することによって多様なアプローチから未知の領域を切り開くための基礎を学ぶことができました。

今後の展望

今回の留学では、主に発生生物学・再生医学の基礎知識を学びました。今後は、再びCCHMCに留学して、化学や物理を用いて再生医学の命題を解明するための研究を行いたいと考えています。また、現在は同研究所で博士の学位を取得することも視野に入れて研究に励んでいます。

留学スケジュール

2016年
10月~
2017年
3月

アメリカ合衆国(シンシナティ)

CCHMCの武部研究室で6か月間、脂肪肝疾患の生体外モデルを確立することを目的に研究活動を行いました。ヒトiPS細胞を用いた研究や本格的な生物学的研究を行うのは初めてで、学ぶべきことが非常に多かったですが、どれも興味深いものばかりでした。また、ほぼ毎日施設内で開かれる著名な研究者による講演会には積極的に参加し、最新の生命科学研究を学びました。住居は同施設の寮を利用し、リースした自動車で週に1回スパーマーケットに行って食料などを買いだめしました。調理器具がなく料理をすることはできませんでしたが、研究室の方たちと多くの食事を共にするきっかけとなりました。海外経験の無かった私ですが、親切な方たちのご助力もあって生活に支障はほとんどなく、研究活動に打ち込むことができました。ただ、研究の都合上、土日祝日を含めてほとんど休みがなかったため、観光することはできませんでした。

費用詳細

学費:納入総額

- 円

住居費:月額

55,000 円

生活費:月額

30,000 円

項目:自動車のリース

120,000 円

CCHMCのメインエントランス
CCHMCの屋上から撮影したシンシナティの夕景
留学初日に撮影した寮の前の樹
費用詳細

学費:納入総額

- 円

住居費:月額

55,000 円

生活費:月額

30,000 円

項目:自動車のリース

120,000 円

スペシャルエピソード

感謝してもしきれない、お世話になった・大好きな人

本留学計画を遂行するにあたり、留学受け入れ先であるCCHMCの武部貴則先生には感謝してもしきれません。武部先生は分野外の学生である私を快く引き受けてくださり、研究機会を与えてくださいました。また、頻繁に食事に誘っていただき、研究計画のみならず私の進路に対しても貴重なアドバイスをくださいました。武部先生がいなければ、本留学における研究の成果をあげることはできませんでした。さらに、現地のラボの方や事務の方々も非常に親切で、初めての海外留学でも心細さを感じることがほとんどありませんでした。

留学最終日に撮影したラボの方々との集合写真

専門分野にとらわれない

  • 留学先探し : 大学院

企業の採用活動において、修士の学生にはある程度の専門性が期待されます。通常、大学では一つの分野を専攻しますが、例えば化学を学んでいる学生は数多くいますので、自身の専門性も埋もれてしまいがちです。しかし、もう一つ別の分野を学ぶことにより、その人の希少性は大きく上昇します。私は化学を専攻する学生ですが、再生医学を学ぶために留学しました(化学と再生医学を同時に学んだ学生はそう多くはないのではないでしょうか?)。結果として、留学中に興味深い成果を得ただけでなく、帰国後の自分の研究の幅が格段に広がりました。また、就職活動においても、一つの分野にとどまらない好奇心と実際に異分野で研究留学した行動力が評価されました。日本の大学に在籍している間は、二つの分野を独立して学ぶことは非常に難しいと思います。留学では自身を取り巻く環境が大きく変化しますので、異分野を学ぶチャンスでもあります。興味が赴くままに異分野留学に挑戦するのも、自分の幅を広げるために有効であると考えます。

これから留学へ行く人へのメッセージ

生物の進化を促してきたのは、遺伝子の多様性です。企業や社会も常に進化するべく、個性的な人材、つまり大多数とは違う希少性の高い人材を求めています。留学は自分の価値を高めることができるチャンスです。留学を通して自分はどういう人間なのかを見つめなおし、他人とはどう違うのかを明確にすることで、社会に必要な人材へと成長できると思います。がんばってください。