高校生の「グローバルチャレンジ」主導し留学率で全国トップ実現第3回 京都府教育委員会 橋本幸三教育長

京都府教育委員会の橋本幸三教育長にとって、これまでに最も思い出の深かった海外体験は、高校を卒業して大学に入る前にパリ、ローマを訪れた初めての海外旅行だったという。

初の海外旅行、「起き上がれないほど」の衝撃
橋本幸三教育長
橋本幸三教育長

「親にお金を出してもらって行った初めての海外へのツアーでしたが、これがものすごく印象に残ったというか、『カルチャーショック』といっていいほどのインパクトがありました。初めてだったことに加えて、文化的な違いや人の振る舞いが違う面をいろいろと見て、『ああ、日本ってやはりアジアの国なんだな』と思いましたし、おかげで『日本を見る目』ができたというのでしょうか。新しい発見ばかりで、帰国してから2日間くらいは起き上がれないほどの衝撃でしたね」

その後も、京都府の観光・商業室長を務めたこともあり、海外には数多く出かける機会があったという。
「各地へ出かけていろいろと貴重な経験をさせていただいた中で思うのは、初めての海外旅行ほどのインパクトはなかったかもしれないなぁ、ということ。やはり若い頃に経験したことが最も大きかった。若いうちは感性が違うのでしょうね。だから、海外には早いうちに行くに越したことはないと思っていますし、それもあって高校生の留学という事業にも以前から力を入れてきました」

京都府は府内の高校生が海外へ留学することを支援する目的で、「府立高校生グローバルチャレンジ事業」を、平成24(2012年度)から展開してきた(各事業の詳細はこちらhttp://www.kyoto-be.ne.jp/koukyou/cms/?page_id=449)。

①京都府の友好提携先である英国エディンバラ市への語学研修(約3週間、30人)
②オーストラリア・アデレード市での語学研修(約2週間、60人)
③海外短期留学チャレンジ制度(英語を公用語とする国・地域へ2〜6週間、12人程度)
④府立高校生夢チャレンジ留学事業(英語を公用語とする国・地域で週15時間以上の語学学習を2週間以上、10人程度)

上記のうち①〜③については上限を決めて留学費用の半分程度を補助している。また、④については留学が経済的に困難と認められる場合に、生徒1人につき最大40 万円を支給するという仕組みである。

単位取得もできる「海外サテライト校事業」

「ありがたいことに昨年度、京都府内の方から3000万円の寄附金をいただきました。これを活用させていただいて『夢チャレンジ留学事業』というのを別枠で設けました」

さらに、京都府では、「海外サテライト校事業」として、オーストラリアやアメリカの学校で、府立高校生が2〜4カ月の中期留学をできるよう実施している。これも対象経費の最大半額を補助するものである。留学期間中の研修内容も取得した単位として認めることで欠席扱いにはせず、留学した生徒も3年間で卒業できるよう配慮している。海外サテライト校事業では今年度は25人の派遣を予定しているという。

「けっこうな人数を海外に出せるようになりました。短期の留学といったわずかな期間の海外体験でも、それを刺激にして勉強をするために海外の大学に行くとか、日本の大学に入ったとしても今度は長期留学して、その後で海外大学を目指すなどしてほしいと思って、こうした事業を展開してきました。なんとか次のステップにつながる機会にしてほしいなと」

こうした府立高校生の海外留学を増やす施策には、山田啓二・前京都府知事が在任時に、京都府教育委員会事務局の管理部長となって以降、自身が中心となって企画と実施、拡充に打ち込まれてきた。

平成29年度の高校生留学率トップに

その甲斐もあって、文部科学省がこのほどまとめた「平成29年度高等学校等における国際交流等の状況について」という調査では、国公立・私立を含めた都道府県別の高校生留学数で、京都府は全国で最も留学生比率が高く、また留学生の伸び率も最も大きいとの結果が出たという。

日本全体にインバウンド(訪日外国人)観光客が増えている中で、京都府では、京都市内はもちろん、府全域で外国人客の流入が増加しているという。その機会をとらえて「海外に行くだけでなく、来てもらった外国人ともっと交流できないかとも考えている」と、橋本教育長は話す。

「インバウンド客の増加で、もはや外国人が日常の風景にいるのは当たり前になった。同じように、府立高校の教室内にも、当たり前のように外国人留学生がいるような環境を作れたらいいなと思っています。それが、日本人の生徒が自分も海外に行きたいなと考える刺激になるかもしれないですから」

外国人留学生の受け入れには、受け手となる高校側にも十分な準備が必要になると考える向きも多く、なかなか進展していないのが実情だろう。だが、橋本教育長は「実際のところ、海外から来た外国人留学生が最初は日本語がわからなくても、日本で過ごしている間にだんだんと周りから学ぶとか、生徒とのやり取りの中で言葉を学んでいくことも多いので、あまり難しく考える必要はないというのが私の思い。もっと環境を作っていかないと、日本人の子どもたちの関心が外に向かわない。とにかく海外に向かっていこうと関心を持たせるということが重要だと思っている」と強調する。

京都府の高校生の留学比率は全国トップ級の約3%にまで高まったが、今後はさらに地域の大学や企業との連携も加速して、高校生のグローバル人材育成に注力したいと話す。

「京都は大学もたくさんあるうえ、有力な企業も多くて、しかも協力的です。予算だけをアテにするのではなく、自分たちがアイデアや企画を出して、原資になるような資金を集めてくる、といったことをシステマチックにできないかとも考えています」

京都の伝統をめがけて海外から多くの観光客や人材が集まる京都府は、新たな仕組みによってさらに数多くの高校生を海外留学へと羽ばたかせることになるかもしれない。

(聞き手・文 三河主門)

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