【東京都】次世代リーダー育成へ200人を11カ月、北米・豪・NZへ派遣

東京都が都内に住む高校生の留学推進に多大な労力と予算を投じている。2020年に東京オリンピック・パラリンピックの開催を控えることもあるが、高校生総数31万人超を抱える国内最大の自治体として、未来を担うグローバル人材を留学などの国際理解教育を通じて育成しようとしているのだ。その取組を詳細に検証すると、ほかの道府県でも参考になるヒントがたくさんある。

①  年間200人規模で次世代リーダーの育成を支援

東京都は「次世代リーダー育成道場」(https://www.ryu.kyoiku-kensyu.metro.tokyo.lg.jp/)として高校生の留学を支援している。国内事前研修を経て、年間200人を約1年間、留学に送り出し、帰国後に事後研修を行うプログラムである。

「次世代リーダー育成道場」の事前研修ゼミナールの風景
「次世代リーダー育成道場」の事前研修ゼミナールの風景
二つのコースが設けられており、1月からオセアニア地域(オーストラリア、ニュージーランド)に留学する「Aコース」と、8月から北米地域(アメリカ、カナダ)に留学する「Bコース」で、それぞれ100人ずつを募集する。日本の在籍校の校長の推薦を受け、選考を経て研修生として決定された後、6か月~1年にわたり事前研修として都内で英語研修や英語での模擬授業などを受ける。
留学先では、ホームステイをしながら現地の高校に通うとともに、留学中に1回程度集合し、リーダーシップ論などを学ぶ。留学先の高校での履修が日本の高校の履修として認められ、単位の修得が認定されると帰国後も留学前の同級生と同じ学年に復学することもできる。
「事前研修は月に2〜3回、日曜日や長期休業日等に設けています。英語でのディスカッションの仕方や、数学や社会などの教科を英語で学び、現地での学習についていけるように支援します。また、研修生は、日本の伝統・文化や東京の歴史を体験的に学んだり、先端技術施設を訪問したりします。
さらに、事前研修から留学中にかけては、個人で設定した社会的なテーマについての論文を執筆します」(東京都教育庁指導部 瀧沢佳宏・指導推進担当部長)。
事前研修の一環として、東京都教育庁が官民連携で平成30年9月に開設した、東京都英語村TOKYO GLOBAL GATEWAYで、実践を積むことも、施策を連携して効果を高める例として特徴的だ。
受講料は80万円。経済的理由により納付が困難な研修生は、受講料の減額や免除を申請することも可能だ。令和元年8月には7期生(Bコース)が北米地域の学校へと羽ばたいていった。同年4月から第8期生の募集がスタートし、同年5月末には選考が始まる。
次世代リーダー育成道場の修了生の進路は様々であるが、国内の大学では、国際関係の学部を選択する者も多い。初年度に留学した修了生の中には、ちょうど就職活動期に差し掛かっている者もいる。修了生たちは、「次世代の会」という同窓会的な組織を作って交流を図っている。
② 姉妹都市を広げて国際交流を推進

平成30年秋、東京都教育庁が主導した新しい事業が稼働を始めた。都内に約2300校ある公立の小・中・高校の国際交流を支援する「東京都国際交流コンシェルジュ」(http://www.tiec-edu.metro.tokyo.jp/)だ。

「東京都国際交流コンシェルジュ」のウェブサイト
「東京都国際交流コンシェルジュ」のウェブサイト
自校が望む国際交流の条件を入力すると、東京都教育庁が教育に関する覚書を締結している海外の国や地域(カナダ、オセアニア、アジアなど)を中心として、交流相手を探し出せる仕組みだ。
「自校の希望条件に合う交流相手を探し出すのにはとても労力がかかります。都内で姉妹校やパートナー校を持つ都立学校はすでに50校程度ありますが、全体の都立校約250校(小中も合わせると約2300校)からみれば、まだ少ないと言えますが、それこそが都にとって国際交流を拡大するための『のびしろ』だと思っています。普通科だけでなく、様々な学校、特に工業、商業、農業等の専門学科で学ぶ生徒達には、自分たちの得意分野を活かした魅力的な国際交流の可能性や必要性があると思います」。東京都教育庁の指導部で国際交流コンシェルジュを担当する森晶子・国際教育事業担当課長はこう強調する。
都内で、国際交流を進めるにあたっては、広島県教委にもヒアリングを行ったという。広島県は90余りある県立学校(高校と特別支援学校)が全て海外に姉妹校を持っている。広島県内の各県立学校は、姉妹校との国際交流を重ねていったことで高校生や大学生の留学数が増えるなどグローバル人材教育で大きな効果があったほか、校長をはじめとする教員もグローバル人材を育てていこうとの意欲が強まったとされる。
国際交流コンシェルジュの発想は、教育に関する覚書による連携先の一つである、ニュージーランドから得た。同じ若い世代のグローバル交流を増やすことで広い世界に対する目を開いてもらいたいとの考えは、2020年にオリンピック・パラリンピックを開催する都政にとって重要課題の一つだ。森課長は「できるだけ、都内の学校が姉妹校との交流を増やすために自走できるようにしたい」と、新システムを立ち上げた背景を説明する。
③  東京で学びたい海外高校生はすぐいっぱいに

東京都は提携する海外の自治体から年間100人の高校生を受け入れている。東京都教育庁が覚書を結んだ海外教育行政機関に募集を依頼しており、「応募数が多いので倍率も高く、募集を始めると瞬く間にいっぱいになります」(森課長)。

留学先の「イリノイ州立大学シカゴ校」でのキャンパスツアー
留学先の「イリノイ州立大学シカゴ校」でのキャンパスツアー
100人に選ばれた海外の高校生は2週間弱、東京に滞在して都内の高校などで研修や授業を受ける。
渡航費こそ海外高校生側が支出するが、事前研修や都内での滞在費、交通費を含む活動費、週末のワークショップ代などは都や提携先の教育行政機関が支払う。都内の高校生と「バディ」と呼ぶパートナーを組み、そのバディ宅にホームステイしたり、一緒に学校に行って日本語で授業を受けたり、部活動や校内の清掃に参加したりもするという。
アレルギーを持つ海外の生徒にはホームステイ時の食事にも気を使ってもらうなどの手間や負担をお願いすることもあるが、「都内の高校生がグローバル体験をすることだけでなく、海外の若者がいつかは日本に、東京に留学や仕事で来たいと思ってもらいたいですね」と森課長は願いを込める。こうした「インバウンド」(海外から日本へ)の留学生誘致にも今後、力を入れていく考えだ。
東京都はこのほか、教員の海外研修も実施している。1〜3か月の海外研修で教え方などを中心に学んでもらい、教員にもグローバルな視野と感覚を養ってもらいたいとの考えからだ。年間の派遣数は140人規模に上る。
このほかにも、「グローバル人材育成施策」として様々な取組を行っている。海外の姉妹校づくりや海外の高校生を受け入れるインバウンド、そして留学によって次代の高校生リーダーを育てるというアウトバウンド、教職員の国際研修まで、オールラウンドで取り組める東京都は、機能的にも予算的にも日本の自治体では別格かもしれない。こうした取組は15名のスタッフで対応している。都が取り組む国際教育の総合サイトである東京ポータル(http://tokyo-portal-edu.com/)には、こうした取組の具体例が掲載されている。

(文 三河主門)

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