事業の失敗、失恋が
渡航のきっかけ
Q:税所さんは、早稲田大学在学中の19歳ときに、バングラデシュに行かれたそうですね。きっかけは何だったのでしょうか。
税所:大学一年のとき、「チェンジメーカー」という本を読んで、社会起業家という生き方に興味を持ちました。自分でも、貧しい子どもたちを対象に無料の塾を立ち上げるなど、社会起業家の真似事をしたりもしたのですが、結局失敗。さらに決定的だったのは失恋をしたこと。もう東京にいる理由がない、海外に行こうと思い立った。もう少しまじめな動機としては、もともと国際協力や途上国に興味があったので、いろいろ文献をあさっていると「グラミン銀行」というのに行き当たった。これは、バングラデシュの銀行で、農村部の貧困層だけを対象に比較的低金利の無担保融資を行っている銀行なんです。インターンを募集していると聞いて、早稲田の同級生、友人2人と行くことにしました。大学2年のときのことです。
Q:そこではどんなことをしたのですか?
税所:最初のミッションは、農村部に行って村の人たちに何にチャレンジしたいか、どんなことが問題か、100人にインタビューをして来いというものでした。英語もろくにしゃべれないのにです。日本の大学にいるときは、ただ座って授業を聞いていればよかった。目立たないようにしていれば先生にあてられることもないし、平和に過ごせていたんです。でも、そこではじっとしていたら始まらない。自分で足を使って動かないと仕事がない。下手な英語でも自分からどんどん話しかけないと村人たちとの信頼関係ができない。すべては日本とは正反対の環境でした。でも、ここでものすごく鍛えられました。
国際教育支援NGO
「e-Education」創業者
税所 篤快(さいしょ・あつよし)
ソマリランドの生徒たちと。日本にいては絶対に会えなかった人たちとの出会い、そこから起こる出来事が楽しい
Q:その仕事を通して得たものは?
税所:貧困国のイメージが変わりましたね。バングラデシュというと、みんな食べるにも苦労していて、子どもが餓死したり、もっと深刻な事態を想像していたんです。でも、案外豊かで、普通に食べて生活しているし、ゆったりと暮らしている分、日本より豊かなのではと思うことありましたね。インタビューでは、自分がもともと教育に興味があったので、学校の先生方を中心にインタビューをしたのですが、学校に理科室がない、パソコンが欲しいとか、いい先生が足りない、などいろいろと学校の問題が見えてきました。思っていたより豊かだったとはいえ、日本の学校には当たり前にあるものがない。とくに教師の数が不足していて4万人も足りない。質にもかなり問題があることがわかりました。これが、後に国際教育支援NGO「e-Education」を立ち上げるときのベースになりました。
グラミン銀行のインターン時代、バングラデシュの小村で、100人にインタビューを敢行!自分から積極的に動くことを学ばされた。
大事なのは世界を変えるかどうか。
恩師の言葉に留学を決意
Q:「e-Education」とはどのようなものですか?
税所:僕は高校時代、落ちこぼれだったんです。その僕が早稲田大学に入学できたのは、予備校のビデオ教材のおかげ。このメソッドを使えば、教員数が少なくても質の高い授業を多くの子どもたちに提供できると思ったんです。プロジェクトチームをつくって事業として真剣に取り組みたいとも思いました。でも、そのためには大学は休学するしかない。正直迷いました。だって、留年ってカッコ悪いじゃないですか。親や親せきに顔向けできないなと。悩んだ末、尊敬していた先生に相談に行きました。そうしたらこう言われたんです。「大学を22で卒業しようが25で卒業しようが関係ない。大事なことは世界を変えるかどうかだ」と。さらにこんなことも言われました。「なんで彼女にフラれたか考えてみろ、お前が中途半端だったからだろう。今突き抜けなくていつ突き抜けるんだ!」ここまで言われたらやるしかありません。問題は、どうやって両親を説得するかでした。結局、この恩師が、僕の両親に宛てて、僕が休学してまでしようとしていることがいか意義あることか、こういう経験は将来海外の大学院に進学するときにも役立つだろうという、大仰な推薦文(?)を書いてくれたおかげで、両親も折れたのです。
e-Educationプロジェクトの第一号は、バングラデシュの小さな農村で開校。30人の生徒たちが集まった。
日本の塾のメソッドを導入し、
貧困国の子どもたちにも優れた教育を
Q:税所さんの行動力、企画力があったからこそ、恩師もひと肌脱いでくれのでしょうね。「e-Education」はうまくいったのですか?
税所:ダッカ大学の友人と、早稲田の先輩と3人で、まずは現地の優秀な教師探しから始めました。賛同してくれる先生を集めてDVD教材を作り、日本から中古のパソコンを集めて、小さな農村で塾をスタートしました。最初はパソコンめずらしさで30人くらいの子どもたちが集まりましたが、だんだん生徒が減っていきました。なぜかと考えたら、貧しい農村の子どもたちにとって大学は高嶺の花。どうせ大学には行けないと、勉強をするモチベーションが続かなかったのです。これは困った、と思いましたが、自分が受験生だったころ、オープンキャンパスで志望校を見学して、俄然やる気になったことを思い出しました。そこで、バスをチャーターして、バングラデシュの、日本では東大に当たるダッカ大学に大学見学に出かけました。バングラデシュでは、多くの学校は男女別学ですが、ダッカ大学は共学でリベラルな雰囲気。学生たちがキャンパスライフを謳歌する様子を目の当たりにしたことで、とくに男子たちのモチベーションが全開。半年後には、塾生30人中18人が大学合格。うち1人はダッカ大学に合格という、自分たちの期待を超えた成果を出したのです。それまで村から大学に進学した人は一人もいなかったのですから。
グラミン銀行のメンバーたち。右から5番目の方が、人生を変えるきっかけとなった、総裁のムハマド・ユヌス博士。
どんな環境に行っても
生き延びていける自信がついた
Q:今年(2014年)、世界銀行本部イノベーションコンペティション最優秀賞を受賞して、バングラデシュ教育省と連携し、同国全土への「e-Education」の拡大を目指しているそうですね。ソマリアに大学院を作るプロジェクトも進行中だとか。この先しばらくは、途上国の教育改革が税所さんのテーマなのでしょうか。
税所:そうですね。ここにくるまでは、うまくビジネスモデルが作れなくて、プロジェクトがとん挫するなど挫折もありました。でも、いろいろな人との出会いに助けられて、なんとかここまでやってきました。バングラデシュでの事業はある程度軌道に乗ってきたので、仲間たちに任せて、僕は、同じモデルを他国にも拡大するべく画策中です。新しい出会いや刺激を求めて、今年の10月から、ロンドン大学の大学院に進学することが決まっています。テーマは教育のイノベーション。ロンドンに来て、さっそくタジキスタン、パキスタン、中国から来た留学生と出会い、彼らと何か新しいことができないかとわくわくしています。
ソマリランドで大学院を作るという新たな夢に挑戦中。
Q:税所さんにとって海外経験はどのような影響を与えたのでしょうか。
税所:どんな環境に行っても生き延びていける自信がつきましたね。また、海外に行ったからこそ、日本にいたのでは絶対に会えないような人たちと出会えた。それが僕の人生を思わぬ方向に切り拓いてくれた。それってすごいことだと思っています。また、バングラデシュには、若手が何か新しいことをしようとしたら「おもしろそうだからやってみたら」と何でも自由にやらせてくれる懐の深さがあります。日本だったら、いろいろなしがらみがあって、あまり冒険ができなかったのでは? ダイナミックなチャレンジが許される風土だからこそできたことってたくさんあると思います。
Q:これから留学をしたい、あるいは留学を躊躇している学生にひと言アドバイスをするとしたら?
税所:ぜひいっしょにチャレンジしましょう。泣きながら勉強しましょう。言葉も文化も違う中でのチャレンジは、辛いこともあるけど、楽しいことのほうがずっと多いですから。
Q:どうもありがとうございました。
プロフィール
税所 篤快(さいしょ・あつよし)
国際教育支援NGO「e-Education」創業者。ロンドン大学教育研究所(IOE)修士課程在籍。1989年生まれ。東京都足立区出身。
2009年、失恋と一冊の本をきっかけにバングラデシュに渡り、同国初の映像授業「e-Education Project」を立ち上げる。4年連続で貧困地域の高校生を国内最高峰ダッカ大学に入学させる。2014年世界銀行本部(ワシントン)イノベーションコンペティション最優秀賞を受賞し、現在バングラデシュ教育省と連携し同国全土への拡大を目指している。仲間たちと五大陸での教育革命を掲げ、7カ国で活動中。早稲田大学を7年かけて卒業、アフリカの未承認国家ソマリランドに活動を広げている。
著書:『前へ!前へ!前へ!― 足立区の落ちこぼれが、バングラデシュでおこした奇跡。』(木楽舎) 2011、『最高の教室を世界の果てまで届けよう』(飛鳥新社) 2013